現実的な選択をすることで,日本なりの有人宇宙船を作ろうと提唱している本。
この本を読むと,それが決して夢物語ではないことがわかります。
宇宙輸送システム「ふじ」は,コアモジュールと呼ばれる円錐型のアポロの帰還カプセルのような宇宙船を中核にしています。
これをH-IIAなどのロケットで打ち上げ,一定期間を宇宙で過ごした後に地上へ戻ってくるのです。
スペースシャトルに代表される再利用型ではなく,ロケットで打ち上げる使い捨て型なのがミソ。
スペースシャトルを見てもわかるように再利用型は決して低コストではなく,技術的なハードルが高く安全度が高いとも言えません。
文中でも,「いま」作ることを考えると使い捨て型が現実的な解となることをコスト,技術双方の側面から解説しています。
またコアモジュールの打ち上げ以後も,これにオプションとして他のモジュールをドッキングさせていくことで,最小単位であるコアモジュールのリソースを有効に活用しつつ新たな展開を図ることができます。
これらの構想の現実性を説明するために,これまでの米ソの有人宇宙技術や,近未来の記述としてよく語られることがある完全再利用型の宇宙船などの技術の説明がわかりやすく書かれているので,そういった方面に興味がある人にもお勧めします。
古くの先達,フォン・ブラウンらも元々はロケットを作るのが目的ではなく,自らが月へ宇宙へ行きたいと願ってその道へ入ったはずです。
宇宙を手の届かない遠いものから誰にでも手の届く所へするために,そんな気持ちでもう一度宇宙を見つめ直してもいいのかもしれません。
また,この本に書かれている有人宇宙船構想は,NASDAの先端ミッション研究センター 野田篤司氏によって書かれた報告書を底本にしています。
以下のページでその報告書を見る事ができます。
ちなみに報告書の協力者には,本書の著者を初め,浅利義遠氏や笹本祐一氏なんかの名前も見られたり(笑)
JAXA総合技術研究本部 「日本独自の有人宇宙船構想」
http://www.ista.jaxa.jp/aet/space/space-d15.html