ひであ観察日誌

ひであの観察日誌です。自転車やペンギン、同人サークル「春うらら」の告知もこちらでおこないます。

変身

http://www.pan-dora.co.jp/henshin/
最終日に駆け込みで見てきました。
渋谷ユーロスペースを訪れるのは初めてでしたが,せまーいスクリーン*1
このサイズで映画を観るのは,名古屋で観た「ラブ&ポップ」以来になります。
それでも最終日ということもあってか,席は7割方埋まっていました。


この映画の最大の興味は,有名なカフカの原作小説の書き出し,


「ある朝,グレーゴル・ザムザが何か気がかりな夢から目をさますと,自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した」*2


これがどのような映像として表現されているのかに尽きます。
ほとんど情報を仕入れていなかったので,ストレートにグロテスクな蟲が出てくるのか,はたまた虫と化したグレーゴルはいっさい映像として映さず,彼の視点をメインに構成することで表現するのか…,といった想像していました。
映画は,大雨の中,汽車から降りたグレーゴルが自宅に帰宅する所から始まります。
夕食からベットに入るまで日常の時間が流れ,なにかに追いつめられているようなグレーゴルの心象風景…おそらくは原作の冒頭の言葉にある「何か気がかりな夢」の後,とうとうその時が訪れます。


「寝床の中で一匹の虫に変わっているのを発見した」
というナレーションと共にカメラのフレームに映ったのは,人の姿のままのグレーゴル・ザムザ本人。
なるほど,こういった解釈があったか! と,ちょっぴし目から鱗です。
パンフレットにて西島大介氏が
「ドロドロネバネバな虫を予想していたら,江頭2:50が出てきた!」
と語っていましたが,かなり的を射ているかと(笑)


物語は,そのまま小説とほぼ同じ筋を辿ります。
もちろんグレーゴルの姿は人のままです。
始めは,服や身体もこぎれいで,変な格好をしている人間…というグレーゴルの姿は,床や壁,天井を這い,餌を食って話が進むにつれ汚れていき,途中からは観ているこちらも,彼を人でない生物であると認知していました。
原作では虫となってから家族とのコミュニケーションが取れなくなったグレーゴルの心の独白も多くみられましたが,映画ではそれがほとんどありません。
虫となった後にあったグレーゴルの台詞は,ひとつあったかなかったか。
それでもちゃんと物語が原作と変わらずに進んでいるのはちょっと素晴らしい。
終盤,グレーゴルが下宿人に発見されてからの下りはちょっとはしょりすぎかな…という気もしましたが,総じてよくできた映画だったと思います。
元々の作品自体が不条理文学と言われるだけあって,この映画を観た後も爽快感の欠片もありませんでしたw
あと,妹役の女の子はかわいかったです。

*1:座数数は75

*2:高橋義孝訳 新潮文庫より抜粋