ひであ観察日誌

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福岡伸一 「[asin:4062575043:title=プリオン説はほんとうか?]」 <span class="bookoff">(15)</span>

日経サイエンス6月号での茂木健一郎と著者との対談を読んで興味を持ったので購入。


この本は,現時点でもっとも受け入れられている,BSE等の伝達性海綿状脳症の説明である「プリオン説」に対して敢えて批判的に解析しようという内容です。
批判的な立場であるため,意図的にミスリードを誘う数字の掲示*1や,プリシナーなどの研究者の心理の代弁 *2・実験や行動 *3の解釈,「アミノ酸配列が“ほぼ”同一」であることを「同一」であると解釈したり *4,遺伝子への一方的な断定 *5 などが見られます。
ただ,逆に言うと,ここまでしなければプリオン説に対する反証をするのが難しい状況なのだということもわかりました。


もちろん,ただ批判的な意見が並べられているだけではありません。
前半では,BSEをはじめとする伝達性海綿状脳症や,プルシナーによるプリオン説の歴史が比較的わかりやすく説明されていますし,BSEが「ウイルス性の疾患」である可能性の一例として挙げられていた,1989年に遺伝子構造が判明したものの,いまだウイルス本体は発見されていないC型肝炎ウイルスの話など,興味深い話もあります。


第三者的に検証するのではなく,反証をすることが主目的であることをわかっていて読む分には,良い読み物ではないでしょうか。
基本的なこととして,プリオン説がいまだいくつかの仮説の上に立っていることがわかりましたし。
前述の反証のための各種解釈や,中途半端な部分は,ブルーバックスだと思えば許せる範囲ですw


ああ,そういえばひとつ。
ひとつだけ不満な点があります。
何故か,本書のしょっぱなから終始,BSEのことを「狂牛病」と呼称しているんですよ。
BSEが世に知られ始めた頃に出版されたのならいざ知らず,昨年の秋に出版された本なんですよね。
いまじゃマスコミだって「狂牛病」と呼ぶとこは皆無なのに。

*1:P32のイギリスにおいて推定される狂牛病病原体潜伏患者数など

*2:P74

*3:P144の「シンプルな実験を避け」等

*4:P179

*5:P196のイギリスとオーストラリア,ニュージーランドの羊の遺伝子に関連する解釈等